2012年06月22日

戸隠に所縁のある作家 津村信夫の「戸隠の繪本」

『戸隠の繪本』という本をご紹介します。

戸隠に所縁のある作家 津村信夫の「戸隠の繪本」

この本の作者である津村信夫は、兵庫県生まれの詩人で、堀辰夫らと「四季」を創刊する。
長野市内の勢国堂というパン屋の娘と結婚をするが、間もなく、妻子を残して35歳の若さでこの世を去ってしまう。

彼の代表作の一つであるこの「戸隠の繪本」の初版は、昭和15年、棟方志功が表紙画を描いて発行された。
写真の本は、津村信夫の生誕100年を記念して、装丁を新たに発行されたものです。

この本には、昭和十年代の戸隠の自然や文化の素晴らしさや人の優しさなどが描かれており、70年以上もの歳月を経た現代に「当時の様子」を伝えている。
私は、しばしば戸隠を訪れるが、ここに書かれている「思いやりの心」は、今の戸隠にも脈々と受け継がれていると感じる。
特に本中の「雷」のお話は、「自然な思いやりの心」がよく表れていた。

以下に一部を抜粋します。

老夫婦が営む坊(宿坊)に食事の用意ができないことを承知で津村は宿をとる。三食は近くの坊に通うことになっていた・・・が、だんだん通うのが億劫になった津村に、その坊の小さな女の子が食事を運んでくれるようになった。
激しい雷雨になったある日、津村は自然の恐怖を感じて、ただじっと雷雨が止むのを待っていると・・・小さな女の子は、びしょ濡れになってお膳を運んできてくれた。

(中略)娘の穿いたカルサンは、膝のあたりまで、びっしょりと濡れていた。お膳の上に載せた新聞紙はもとより、小さな手からも滴が流れてゐた。
由坊と云う娘は「お客さん、お腹がすいたかね」と訊ねたが、私はそれに何と云って答へていいかわからなかった。
「由坊、こんな晩には無理にお膳を運ばんでもええぞ、一晩くらゐ、いくらでも家で御世話出来るからな。」
老人の言葉を黙ってききながら、娘は爐端でしばらく濡れた手を暖めてゐた。(原文)


とある。ひたむきな少女の姿には優しさと何とも言えない切なさを感じる。
この章の最後はこう締めくくられている。

(中略)少し突飛だが、夜道を帰って行った由坊のような娘の頭の上にも、毫光が差してくれればいいと、そんなことを考へた。
高妻乙妻の連峰の高鳴りが、いつ迄も私の耳に残ってゐた。(原文)


この「自然な思いやり」が津村の心に染み入り、何度も何度も戸隠を訪れる要因になったのだろう。
このほかにも美しい自然や、興味深い伝説など活字から戸隠の良さを味わえると思う。
ぜひ、お読み頂いてははいかがでしょうか。

また、この「津村信夫」氏を偲ぶ“紫陽花忌”が下記の日程で開催されます。

日 時   平成24年6月27日(水) 午後2時から
場 所   戸隠神社中社大鳥居前広場 (集合)
内 容   本の題材になった「越水ヶ原」の散策、津村信夫文学碑見学・清掃、
       堀井正子(近代文学研究家)さんによるお話、懇親会など
参加費   1,000円


問合せ先 「戸隠の絵本」津村信夫紫陽花忌実行委員会
℡ 090-2250-1673 (山口) 



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Posted by いいときナビ at 09:29│Comments(0)戸隠
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